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「偽書 実存する嘘」は霧間誠一足りえるのか

ブギーポップシリーズで有名な上遠野浩平の作品に登場する作家、霧間誠一。その多くは、登場人物としてではなく、霧間誠一の文章として引用の形で挿入される。何かに気づかされる、その独特な哲学に満ちた文章は、上遠野浩平の作品の魅力の1つである。しかし、残念ながら、霧間誠一単体の作品は出ていない。

某掲示板にて「霧間誠一のような作品は存在するのか?」という話題があり、そこで挙げられた作品について、今回の記事としたい。因みに、タイトルにある「偽書 実存する嘘」もその1つであり、人目を引くタイトルであることと、霧間誠一の作品としてありそうな名前であったため、記事のタイトルに採用してみた。一見すればパラドキシカルであり、実存主義等に馴染みがあれば中々興味を引くタイトルである。

個人的に霧間誠一の文章は次のように考えている。散文的で直感的な思想であると。例えばペソアの散文を直感的な内容にすれば近くなる。以下にペソアの一文を引用しよう。

あらゆる快楽は悪徳ある。なぜなら、快楽を求めることは、人生において誰もが行うことだからであり、真に呪われた唯一の悪徳は、みなと同じようにすることだからである。

これなんかはそのままでも霧間誠一に近いものである。また、独特な思想を持つヴュイユ「重力と恩寵」もかなり直感的なまでの文章に落とすことができれば、近いところがあるかもしれない。さて、私の個人的な考えはここまでにするとして、実際に挙げられた作品について、語っていこう。

 

現代思想の冒険 (ちくま学芸文庫)

現代思想の冒険 (ちくま学芸文庫)

 

 「現代思想の冒険」 竹田 青

マルクス主義を基点として、以前以降の思想を追うものである。それと同時に資本主義において人は主体者でなくなり、もはや人では突破不可能なシステムと化したという哲学的な帰結の一つを絡めつつ、飽きさせない作りとなっており、この1冊で現代思想の入門くらいの授業が行えそうな内容である。もっとも80年代に書かれた作品であり、90年代以降の日本を知れば違った内容になったかもしれない。平易な文章でわかりやすく、思想を伝えてくるため、霧間誠一に近いものがある。また、文体も近い。

 

偽書 実存する嘘 (MyISBN - デザインエッグ社)

偽書 実存する嘘 (MyISBN - デザインエッグ社)

 

偽書 実存する嘘」 M.V.M.757

小難しい本のようなイメージを受けるが、実際は散文集である。勿論、一筋縄ではない、実験的な感じもある。独特な見方で作られる文章は、霧間誠一や上遠野浩平の発想に近い。文体も霧間誠一に近いものもある。

しかし、問題はここからであり、文章によって文体が異なり、数種類の文体が存在する。そして、散文自体も様々な形式で書かれる。QA、メモ書き、ショートショートから、序文やあとがきに至るまで。収録内容は一見寄せ集めであるが、散文間で補足しあい、考えが広がりを見せる。またこの本自体が偽書の体裁のため、メタフィクション性まで獲得している。

因みに、多くの人には見慣れない形式のペンネームではないかと思う。おそらく魔法名とか魔術名とか呼ばれるマジカルモットーである。19世紀英国のオカルト団体が採用しており、伝統的にはラテン語ヘブライ語でモットーを書き、その後に3桁ないし4桁の数字を添える形式である。そのため、アルファベット部分はモットーの頭文字だと思われる。偽書の体裁のとり方とも無縁ではないため、ペンネームまで含めて偽書の可能性が高い。

こんな変な作者であるから、作者紹介がまともであるはずもなく、AMAZONの作者紹介までも荒ぶっているのは見物である。正直、途中から脱線している気もするが、それも仕方ない作品と思って頂けるとありがたい。というところで、そろそろ次の作品に移りたい。

 

死体は語る (文春文庫)

死体は語る (文春文庫)

 

「死体は語る」 上野 正彦

監察医だった著者が、これまでの検死の中で変わった体験を語ったものであるが、霧間誠一にも上遠野浩平とも似てはいない。文体が少し淡々とした印象を受けるくらいだろうか。今回の記事にはそぐわないため、このくらいにする。

 

ロック大教典

ロック大教典

 

「ロック大教典 」 渋谷 陽一

霧間誠一とは関係ないが、上遠野浩平自身も挙げていた作者であり、恐らく文体の面で上遠野浩平が影響を受けてたと思われる1冊。確かに文体は似ている。霧間誠一の文章ではないが、あとがきやハズレ君などの文章では顕著ではないだろうか。内容は渋谷陽一が過去に書いたライナーノーツからチョイスしたものと、このために行ったまともな渋松対談が収録されている。音楽に興味がない人が軽く読み流すと面白みもないが、じっくり読めば興味がなくても楽しめる1冊である。

 

結論として、霧間誠一足りえるかと言われたら、足りえるはずがない。霧間誠一ではないのだから。勿論、霧間誠一も他の作者足りえることはない。それでも、新たな楽しみにできる作品もあり、代わりではなく、自分の好みに合いそうな別の楽しみを見つけるという意味合いでは、霧間誠一に似た作品を探すのも悪くはないと思う。

 

あんな挑発的なタイトルにしたのに日和るなよ。

世の中、思ったのと一致してることって、殆どないじゃん。

それだと、詐欺っぽくしましたって聞こえるけど?

内容は如何であれ、今回は読んだ人が楽しめそうな作品が1つでもあれば、それでいいってことで。まあいいじゃん。

 

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