安達としまむら

入間人間は青春コメディこそが真骨頂だと思う。いや、別に真骨頂というわけでもないかもしれないが、少なくても「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」「たったひとつの、ねがい」のような悪文・・・中でも強引過ぎるミスリードがお約束ということがなく、初め読んだときには別人が書いたと思うくらいに読みやすいのだ。おそらく本来の文章自体が「電波女と青春男」のような青春コメディ向きなんだと思う。

しかも、上記2作品を書くような作者が、手放しに読めるコメディを書くわけがない。心にどこか問題を抱えた人物が出ることが多い。しかし、そこが、コメディという名目もあり、自重してマイルドになった結果、奇跡的にそれが心理描写のいいスパイスにつながり、面白さを与える。その中でも入間人間の最高傑作だと勝手に思っている作品が「安達としまむら」である。

安達としまむら (電撃文庫)

安達としまむら (電撃文庫)

 

簡単に言えば、ヤンキーの女子高生二人が、授業中に体育館の2階で時間を潰しつつ、どこか壊れている心の傷の舐め合う物語である。もちろん、こんなことを書くと怒られそうなので、まともにいえば、どこか心の壊れている女子高生の安達としまむらが仲良くなる物語である。安達はこれまで何にも興味が持てなかったが、初めて気を許したしまむらに、唯一興味を持ててしまったために、依存するようになる。しまむらはしまむらで、他の人と同じように何にも興味は持てるものの、興味は持てても、執着できない・・・誰も本当に大切だとは思えない。しかし、どこかで安達は他の人とは違うなとも感じている。そんな二人が、学園生活を送っていく、そんなストーリーである。

オーガニック・スシならぬオーガニック・ユリ…ま、嘘だけど。

それはそれとして、どこが最高傑作なのかといえば、心理描写がオーガニックなところだ。心理描写のキレがすごい。別に流行の百合作品とかいう理由ではなく、心理描写のセンスが・・・描く心理のチョイスが本当にいい。別にストーリーとして見せる箇所があるわけでもなく、あっと驚くような何かがあるわけでもない。その心理描写が本当にいいだけである。

ただ、これまでは、その心理描写がポツポツと控えめにあるだけだった。つい先日に発売された4巻では、その心理描写が冴え渡っている。たぶん、ペットショップの犬を見て、ここまで胸に刺さる思いを描いた作品は少ないんじゃないかと思う。しかも、その悲しさの心理が縁遠いものでなく、身近なごくごく当たり前の感情だというのには驚きである。

基本的に3巻までは、安達の心のおかしさに目を向けられる作りとなっていたが、4巻から、しまむらの心のおかしさが強調され始める。そして、しまむらの心のいびつさに対する一つの解答などが与えられて、このシリーズは終わるんじゃないかなと勝手に思っている。そして、作者が作者だから、意外とハッピーエンドのようなものはなくて、きっとビターエンドなんだろうなーと勝手に妄想しているのである。

 

ちなみに、しまむらの名前のかっこよさは、ヒロイン屈指だと思う・・・ヒロインっていうのは、嘘だけど。