「ブギーポップは笑わない」と上遠野浩平

言うまでもなく、「ブギーポップは笑わない」は電撃文庫だけに留まらず、ライトノベルの方向性にも影響を与えた作品である。しかし、最近では、感想は書かれても、ブログで紹介しようとすることは少ないため、最初の記事でもあるし取り上げてみた。

 

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))

 

 

上遠野浩平

ラノベの世界のリアル「霧間誠一」とも言うべき、著者の上遠野浩平について、先に触れておく。そもそも「霧間誠一」とは作中の人物であり、彼の著書を読んだ人の中から、能力に目覚めた人が多く生まれたため、彼の著書には人を目覚めさせる何かがあるとされた。現実の著者自身も、この業界において、多くの人を目覚めさせ、方向性を決めてしまった人物であり、人によっては本当に、上遠野浩平とはリアル「霧間誠一」なのである。

今となってはオワコン、もしくは時代遅れ呼ばわりされることも多いが、アニメ化作品には及ばないものの、今の下手な作品よりは売れていたりする。その上、ライトノベル系レーベル以外でも作品を書け、どこの出版社から出しても一定数は売れるため、消えることのない位置にいる作家になったと言うべきだろう。

文の特徴としては、淡々とした文章を書き、描写力が乏しいと言われることが多い。しかし、正確には乏しいのではなく、そもそも描写をしていないと言った方が正しい。人物の配置と行動、それだけでも面白いと思わせてしまった、変わった作風を持つ。(特に「ブギーポップは笑わない」では顕著)

基本的に、文章の旨さでなく、その独特な考え方に魅せられるタイプの作家である。自身のかくあるべしという考えを基に書くこと。そして、当たり前でありながら、当たり前でないものを指摘できてしまう世俗離れした感じから、ライトノベルがメインでありながらも、ある意味で誰よりも作家らしいステレオタイプな作家と言えるかもしれない。(故にあの後書きである)

ブギーポップは笑わない

ブギーポップシリーズの1作目であり、デビュー作である。ライトノベルの流れを変えた1冊にもかかわらず、メディアミックスが失敗したため、当時の狭いライトノベル市場の中に知名度が留まった意外と不遇な作品である。

初めて上遠野浩平の作品を読む場合に薦められる作品であり、作者の最高作と言われることが多い。しかし、みんな大好き学園ものだったり、一般に共感しやすい要素が多く、受けがいいように作られていて、実際は客寄せパンダな作品である。ただ、初めに読むには最適な作品であり、主要な登場人物の紹介とブギーポップという存在の説明になっている。

また、ブギーポップの物語の中核となる出来事は既に終わっていたり、未だに、ブギーポップシリーズ中の最も未来の話が書かれてあったりと、1作目としては珍しい作りになっている。

留意点としては、90年代の退廃的な雰囲気を知らない場合、作品の雰囲気を十分に楽しめない可能性があること。そして、上遠野浩平の作品全般に言えることではあるが、間違いなく人は選ぶ。また、1作品毎に物語は完結するが、ある出来事の中で見せる人の姿は一面にすぎないという考えがあり、複数作品を読まなければ知ることができないことも多い。

 本作を読んでも楽しめなかった場合、作家的に合わない可能性も高いが、他の作品を試しに読む気があるなら、以下の作品をおすすめしたい。

ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター PART 1 / PART 2

ブギーポップは笑わない」の段階で、本当に書きたかった作品であり、私的には作者の中での最高作。ブギーポップの物語のメインであり、何より霧間誠一の文章がすばらしい。

ブギーポップ・イン・ザ・ミラー パンドラ

恐らく、最も人間関係を描いた作品であり、好きな人も多い作品。

ナイトウォッチシリーズ

話の面白さから言えば、作者の中で一番出来のいいシリーズであり、SFもの。ただ、ブギーポップだけを追っている場合、あること自体に気づいていない人も多い。

 他にも挙げるとすれば、「夜明けのブギーポップ」「ペパーミントの魔術師」なども好きな人が多い。また、ファンの中では「ホーリィ&ゴースト」を好きな人が意外と多いが、試しに読む分には薦められない。人によっては「しずるさんシリーズ」も楽しめるかもしれない。

ブギーポップの世界観

他作品のノベライズ以外は、ブギーポップシリーズでなくても、基本的に同じ世界観であることが特徴となっている。また、1冊読んだだけではわかりにくいが、出てくるガジェットも多く、某ラノベの「宇宙人未来人異世界超能力者」さながらに登場している。(ただし、世界観的に違和感のない設定でまとめられている。)

まとめているサイトが意外と少ないので、簡単に出てくるものを列挙してみた。

宇宙人

「ナイトウォッチシリーズ」の虚空牙、ブギーポップの時代に送り込まれた虚空牙の端末であるエコーズ、ブリック、飴屋等が宇宙人にあたる。虚空牙は万能に近い存在でありながらも、生命を理解できないため、人類を観測し続けている存在となっている。

SF

統和機構の合成人間や合成人間の使う能力の多くがこれに当たり、科学技術の産物となっている。(もっともエコーズを解析したこともあり、現実よりも、進んだ科学技術を持っている)また、「ナイトウォッチシリーズ」の時代には、光速を超える速度、惑星を破壊できる兵器など、かなり科学技術が発達する。

超能力

水乃星透子、フォルテッシモ等のMPLSがこれにあたる。進化した人類が持つ特殊な能力とされ、奇蹟使いや詠韻文明の段階に至れない人類が持つ未熟な能力扱いにされている。また、「ヴァルプルギスの後悔」において、MPLSが生まれた原因が明かされている。

魔法

マイロー、リスキィらの奇蹟使い、その後の詠韻文明の詠韻や並行世界(「事件シリーズ」)の魔法が、一般的な魔法に当たる。人間が死んだ後に残る死のエネルギー、呪詛を扱う技術であり、MPLSよりもより広範囲に影響を与えられるとされる。が、性質の違いであり、奇蹟使いがミサイルとすれば、MPLSは細菌兵器みたいなものである。(結局、ヤバイことには変わりない)

異世界(平行世界)

ブギーポップの世界と事件シリーズの世界の関係にあたる。界面干渉により、平行世界間で漂流物が流れ着くことがあり、「戦車のような彼女たち」では人も流れ着いている。

 因みに、未来人はまだ登場していないが、相剋渦動励振原理に関わる技術や能力であれば、限定的ながら時間操作を行っていることから、将来的に登場する可能性もある。また、時間が閉じている場所で、未来の自分を目撃する、未来の可能性を現在に持ってくる等であれば、既に作中で登場していたりする。

ブギーポップシリーズ

ブギーポップシリーズとなっているが、ブギーポップが殆ど出てこないことも多く、少しの登場でもシリーズに含まれるのは、この作者のお約束である。「エンブリオ炎生」以降、中だるみを感じる人も多い。また、統和機構を含めた世界観の説明をしていく以上、必然的に戦闘要素が多くなってくる。

しかし、ブギーポップシリーズを通してみれば、シリーズとしてのバランスもよく、思っている以上に世界観も明かされていたりする。実のところ、「エンブリオ炎生」以降の中だるみを感じる多くの原因は、ブギーポップシリーズと毛色の違う、「ビートのディシプリン」のイメージ、そして、他作品を執筆によって、ブギーポップシリーズの刊行スピードが落ちたことによるものが大きい。また、巻が進むにつれ、戦闘要素は確かに増えるものの、描いているものは、ありきたりの恋であったり、友人との繋がりであったりと、基本的に変わっているわけではない。

終わることがないように思えるシリーズであるが、ブギーポップシリーズの最終巻自体の構想はかなり前から語られており、終わるために必要な世界観説明のためのサイドストーリーを書いたりと、実のところ終わりに向けて進んでいる。そこに着目して、これまでの内容を個人的な解釈で、勝手に分類してみた。

第一部 ~ ブギーポップのベースとなる話 ~

第二部 ~ 世界観の説明とブギーポップの終わりに向けた伏線 ~

第三部 ~ 登場人物の振り返りつつ、物語の終わりへ ~

以上が勝手な分類であり、予想でもあるが、あと10年もすれば完結するのではないかと思われる。ただ、統和機構の中枢争いに関しては、ブギーポップシリーズ以外で結末が描かれる可能性が高い。

関連作品

ビートのディシプリン

世界観説明のための1つ目のサイドストーリーで、統和機構の合成人間がメインとなっている。統和機構が絡むと必然的に戦闘シーンが増えるため、ブギーポップシリーズから外したのはいい判断だと思う。

ヴァルプルギスの後悔

世界観説明のための2つ目のサイドストーリーであり、霧間凪を主役とした魔女戦争の物語になっている。この作品でかなりの設定が明かされ、「事件シリーズ」の世界との類似、「ナイトウォッチシリーズ」、「冥王と獣のダンス」の時代の関係が語られていたり、「ペイパーカットシリーズ」の人物が登場したりと、他作品とのリンクも多い。

螺旋のエンペロイダー

世界観説明のための3つ目のサイドストーリーで、統和機構の構成員を養成する学校の話になっている。「冥王と獣のダンス」の時代の枢機王が登場したり、「ナイトウォッチシリーズ」の相剋渦動励振原理に関わる(と思われる)MPLSが出てきたりと、他作品とのリンクが多い。

ナイトウォッチシリーズ

人類が宇宙に進出した、ブギーポップの時代からかなり未来の物語で、虚空牙との戦いが語られるSF作品。

冥王と獣のダンス

「ナイトウォッチシリーズ」の遥か未来の地球を舞台に、枢機軍と奇蹟軍の戦いが描かれている。

機械仕掛けの蛇奇使い

第五文明である「冥王と獣のダンス」の時代において、第四文明の遺物であるナイトウォッチの演算装置がシミュレートした、未来である第七文明の物語となっている。また、シミュレートでなく、実際の第七文明が語られた作品として「虚無を心に蛇と唱えよ」が存在する。

事件シリーズ

ブギーポップの世界の平行世界が舞台となっている、争いを交渉で解決する戦地調停士の物語。残酷号事件無傷姫事件と事件シリーズ要素が薄れていくが、ファンタジー作品として非常にいい物語になっている(そのうち、書きたいファンタジーを書くシリーズになりそうでもある)また、サイドストーリーで、ブギーポップの世界との繋がりが描かれた「彼方に竜がいるならば」もある。

しずるさんシリーズ

ブギーポップと同じ時代で、しずるさんとよーちゃんという女の子ふたりが「はりねずみチクタのぼうけん」を考えていく、ほんわかガールズトーク物語。ではなく、上遠野浩平が考えるミステリー像で作られた推理小説

ペイパーカット(ソウルドロップ)シリーズ

ブギーポップと同じ時代で、生命と同等の価値ある物を盗むペイパーカットを追う物語で、虚空牙から送り込まれた端末の1人である飴屋が登場する。

人間(ウトセラ・ムビョウ)シリーズ

統和機構の合成人間にまつわる物語。S-Fマガジンでの連載で、ついにハヤカワからも単行本を出してしまった。単行本の既刊は「製造人間は頭が固い」の1冊で、表題の「製造人間は頭が固い」自体は「年間日本SF傑作選 アステロイド・ツリーの彼方へ」にも収録されている。

 他にも、ブギーポップと同じ時代の作品である「酸素は鏡に映らない」「私と悪魔の100の問答」「戦車のような彼女たち」「パンゲアの零兆遊戯」があり、単行本未収録の短編も存在する。

 また、ブギーポップシリーズ等の小説とは直接関係はないが、珍しいものでは、霧間誠一の著作物が存在する。「平成の麒麟 上遠野浩平」(撮影:北島敬三、文:霧間誠一)という僅か6ページの記事である。PHP出版の雑誌「Voice 2002年8月 景気底入れは本当か! (296号)」に掲載されていた。

メディアミックス

ブギーポップシリーズについては、メディアミックス作品も存在するが、原作者の上遠野浩平は基本的にノータッチ。特に注文をつけず、その上、メディアミックスで勝手に作った設定を意外と拾ってあげるやさしい原作者である。

ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom

ブギーポップのTVアニメで、ブギーポップが一般には余り盛り上がらなかった原因と見られることが多い(がファンなら見る価値はあり)。内容は、設定を一部変更した上での、スピンオフ的なオリジナルストーリー(であり、アニメより「TVシリーズシナリオ集」がメイン)。能登麻美子のデビュー作であったり、OP曲が神懸っていたりする。

ブギーポップは笑わない Boogiepop and Others

ブギーポップは笑わない」の実写映画で、TVアニメを原作設定から変更させた一番の元凶。実写映画とTVアニメがセットとなった企画であったため、実写映画の都合で、マンティコア戦が変更されてしまった。唯一のよかった点は、主題歌がTVアニメのOPと同じことである。BOOGIEPOP AND OTHERSはブギーポップシリーズ等のイラストを担当している緒方剛志の画集のタイトルである。

ブギーポップ・デュアル 負け犬たちのサーカス

ブギーポップの設定を使った高野真之によるコミックで、別のブギーポップが出てくるオリジナル設定&ストーリーな作品で、全く別物となっている。・・・というのが本来のはずであるが、原作と両立する解釈の可能性が出てきている。(とは言え、オリジナルのブギーポップとは別ものであり、イマジネーターの噂と合わさり、自動的存在らしきものが扮したものと考えれば・・・という程度である。)

ブギーポップは笑わない(コミック版)

ブギーポップシリーズ等のイラストを担当している緒方剛志による原作準拠のコミカライズである。緒方剛志の絵柄は、好みが分かれるとも思うが、丁寧に作られており、見所はマンティコアである。(ある意味、コミック版のヒロインといってもいい)

 

試しに紹介を書いてみたけど、どうよ?

何か文体が固すぎないか?

初めての記事で、書きなれてなくて、どうしても堅苦しくなるんだよ。

それにしても、初めはコミカルに書いてみるって、言ってた気がするのだが。

理想と現実は違ったってことで。まあいいじゃん。

 

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